イベントに双眼鏡



 イベント会場ではオペラグラスを持っているひとをよく見かける。 オペラグラスは小さい、軽い、安いと三拍子揃っているが、 倍率や視角、そして何より像の鮮明さという大事なところが物足りない。 だいたい左右の視度が違うひとには視度調整がないオペラグラスは不便この上ない。 また、最近はコンパクトタイプの双眼鏡もよく見かけようになった。 確かにコンパクトタイプなら適当な倍率となかなか鮮明な像が得られるが、 やはり明るさと視角が物足りない。 コンパクトタイプでも良いものは定価 15,000 円くらいするので、 そこまでお金を出すなら小ささ軽さを諦めて、 視角と明るさを追及してオーソドックスな双眼鏡にすることをお勧めする。 余談だが、 対物レンズ同士が離れているポロプリズム式のオーソドックスな双眼鏡のほうが 立体感がある像が見えるのではないだろうか。 プリズムの形式、 ポロプリズム式とダハプリズム式については各社のカタログを読んで欲しい。

 双眼鏡では倍率というものも大事だが、 それと同じくらいあるいはそれ以上に視角というものが大事だ。 倍率が高くなるほど一般に見える範囲、 つまり視角が狭くなる。 せっかく大きく見えても見える範囲が狭くなると意外と不便だ。 逆に倍率が低くなると一般に視角は広くなる。 つまり低い倍率のメリットは広い範囲が見えるというところにある。 倍率などが同じ性能なら視角が広いほうが良いし、 視角などが同じ性能なら倍率が高いほうが良い。 ここまで、一般に、という言葉を二度使った。 つまり例外的なものもあるということで、 視角が広くて倍率も高い双眼鏡もある。 このようなもの、倍率と視界との積が 65 度を超えるものは広角型、 あるいは広視界型などと呼ばれる。 広角型はそれなりの明るさを持つものが多く、 またプリズム形式としてはポロプリズム式が殆どだ。

 倍率はだいたい 7 倍くらいから 10 倍くらいが使い易いといわれている。 倍率が低いと双眼鏡として意味がないということだろうし、 倍率が高いと視角が狭くて不便ということだろう。 また、倍率が高くて視野が狭いと手ブレも気になる。 広角型なら 12 倍くらいまで使い易いに含まれるだろう。 大きなイベント会場ではそれ以上の倍率が欲しくなることもある。 実際に倍率 20 倍、有効径 50 mm の双眼鏡を使ったことがあるが、 暗くて見づらく、また、手ブレが気になった。 手ブレは一脚を使えば抑えることができるだろうが、 暗いからといって勝手に照明を炊くわけにもいくまい。 20 倍で 80 mmなんていうもの一般に入手可能だが、 2 kg くらいという重さは遠慮したい。 ここで三脚ではなく一脚を使ったのは、 イベント会場で三脚を使うと場所を取って周囲に迷惑だからだ。 ちなみに Canon が手ブレ補正機構内蔵の 12 倍および 15 倍の 広角型双眼鏡を作っている。 これについてはメーカー別の説明、 Canon のところで述べたい。

 明るさという点では対物有効径を倍率で割った値、 すなわち瞳径が目安になり、 明るさはその自乗に比例する。 人間の瞳の大きさは真っ暗なところで最大になり 7 mmくらいだという。 明るい室内なら 3 mmくらいだろうか。 そのときの瞳の大きさより双眼鏡の瞳径が小さいと 双眼鏡の像は肉眼より暗くなる。 そういうわけで、 双眼鏡の瞳径は 3 mm くらいは必要といえるだろう。 ちなみに天体観測などでは最低でも 5 mm くらい必要らしい。 実際にイベント会場で瞳径 2.5 mm の双眼鏡を使ったことがあるが、 確かに暗い。 また同じく瞳径 3.8 mm の双眼鏡を使ったときには ステージの照明が消えたときでも肉眼とほぼ同じ明るさで見えた。 広角型で瞳径が 5 mm を超えるものというのはそうそうないが、 以上の通りイベント会場でそこまでの明るさは必要ない。 また、有効径が大きな双眼鏡は大きく重くなるので、携帯性が悪くなる。

 さらに、 明るさや像の鮮明さのためにはレンズ全面にマルチコートが施されたものが良い。 プリズム面を含む全ての面にマルチコートが施された完全マルチコートならなお良い。

 倍率が変えられる双眼鏡、 つまりズーム式というものもあるが浦越としてはお勧めできない。 ズーム式は同じ倍率の双眼鏡より視角が狭いことが多く、 また低倍率側では特にそれが顕著だ。 つまり低倍率側ではそのメリットが 充分にないといえる。 ズーム式でも広角型はあるが、 実際に広角型として使えるのは高倍率側だけである。 その高倍率側も、 先ほど説明したようにあまり高い倍率は視界が狭い、 像が暗い、 手ブレが気になるというわけで使いづらく役に立たないのではないだろうか。 そういうわけで、 適当な倍率で広い視界が得られる広角型の双眼鏡をお勧めする。

 精度に関係してくるが、 プラスチックボディは避ける。 軽いかもしれないが精度や耐久性の面で問題あるだろう。 アルミ合金なら強度も軽さも充分だろうし値段も悪くない。 また、 組み立て精度といった品質管理の点から日本製のものが良いだろう。 日本の会社でも海外生産、 アジアものはそんなに精度がないらしい。 精度が悪いとどうなるかというと、 乱視のようになったり、 ピントがあった面が平面ではなく曲面になったり、 どうやってもピントが合わなかったりするらしい。

 そのほか少々。 アイリリーフ、 つまり対物レンズ面からどれだけ目を離しても 双眼鏡の像が全て見えるかという点もチェックしてみると良いだろう。 あまり短いと使いにくい。 これが 15 mm 以上あるとメガネをかけたまま使える。 もっとも、 メガネをかけたまま使うと双眼鏡を顔に押し当てにくいので 高めの倍率では手ブレが気になる。 もともと双眼鏡はメガネを外して使うものだろうから そうして使えば良いだけのことだし、 コンタクトレンズを使うという手もある。 10 倍以上ならそうしたほうが良い。 ステージにそこそこ近い席で、 メガネで直接見たりメガネを外して双眼鏡から覘いて見たりとするよりは メガネをかけっぱなしにできるアイリリーフの長い双眼鏡が良い。 また、業務用双眼鏡などにはあまり縁がないと思うが、 これら精度を追及したものはピント調整が左右独立になっているものが多い。 やはりちょっと使いにくいかもしれない。 さらに、 業務用双眼鏡や天体観測用双眼鏡などには最短合焦距離が長いものもあり、 つまりこれらはある程度距離が離れていないとピントが合わない。 7 倍で最短合焦距離が 24.5 m なんていうものもある。 そんなに距離のある会場は少ないし、 あったとしてもそれだけの距離があれば 7 倍では足りないだろう。 7 倍で最短合焦距離 10 m 以下なら大丈夫だと思う。

 ここまで値段については全く触れなかったが、 このあたりはひとそれぞれなので特に書かない。 実際に買うときに各自で条件を設定すれば良いし、 買う前にいろいろ詳しく調べれば値段の感覚も変わってくる。 大きさや重さも同様だ。 そのあたりのことは浦越の買い物の例のところを読んで参考にしてほしい。

 さて、 以上のことから浦越なりの、 イベント用双眼鏡に必要な条件や適した条件を挙げてみよう。
  1. とにかくまずは広角型のオーソドックスなスタイルのものが良い。
  2. 広角型なら倍率は 8 倍、10 倍、12 倍くらいが良い。
  3. 瞳径は最低でも 3 mm 必要。4 mm あれば充分。
  4. レンズ全面マルチコート、できればプリズム面まで全て マルチコートのものが良い。
  5. アイリリーフが 15 mm 以上あるとメガネをかけたまま使えなくもない。
  6. プラスチックボディは不可。
  7. 日本の会社なら日本製が良い。
 各項目についての説明はもう要らないだろう。 では、 いよいよ浦越の買い物の例に移っていく。

 浦越は以前、 親父から双眼鏡を借りて使っていた。 8 倍 30 mm の広角型で、 なかなか良いものだ。 しかし借りたり返したりが面倒だし、 ちょっとカビもあったので自分のものが欲しくなってきていた。 また、 8 倍では倍率が足りないこともあると感じてきていたそんなあるときのことだ。 二週続けてイベントに行けたもののどちらも後ろのほうの席になり、 さらに親父から双眼鏡を借り損ねるということがあった。 ゲストが豪華なイベントでそのゲストの表情がよく見えないというのは 非常に残念だった。 そこで、 以前より購入を考えていた気持ちに決心がついた。 次のイベントまでには買う、 買って間に合わせると固く決心してカタログを集め始めた。

まずはカタログを集めて情報を仕入れ、 よく分析して知識がついたところでひとと相談する。 どうせならある程度は条件を絞り、 具体的に候補とする製品に目星をつけておくと良いだろう。 さて、 浦越の場合は先ほど挙げた条件に加えて、 以下の条件を加えた。
  1. 20,000円までに抑えたい。最大で25,000円。15,000円以下ならなお良い。
  2. 重量は800g以下、できれば700g以下。
 浦越の場合は親父が相談相手になりそうだったのでちょっと相談してみたところ、 カメラ会社や望遠鏡の専門会社だけでなく Kenko などのカメラのレンズのフィルターを主力にしている会社も チェックに加えてみると良いだろうというアドバイスをもらった。 船員の親父は職場では Nikon の HIGH GRADE シリーズを使っているらしい。 だがこういっては何だが、 結局、 目から鱗が落ちるようなアイデアなどは得られなかったかもしれない。 やはり業界にも詳しいひとがいれば良いだろうがそういうひとはそうそういないので、 直接お店で詳しそうな、 よく話をしてくれそうな店員さんを探すことにした。

 当時、 ヨドバシカメラでは 7 %ポイント還元セールということだったので、 買い物はヨドバシですることを考えていた。 そういうわけで横浜や新宿東口に行ってみたが、 新宿西口本店が一番揃っているということだったのでそちらにも行ってみた。 たしかに横浜はともかく、 新宿東口店の双眼鏡のコーナーはコンパクトタイプがほとんどで、 オーソドックスな双眼鏡は少なかった。

 新宿西口本店の 1 階と 6 階の双眼鏡のコーナーで 合わせて 5 人くらいの店員さんに話しかけたり話しかけられたりすると、 いろいろ貴重な情報が得られた。 まず、 OLYMPUS の双眼鏡は精度が悪すぎて全品返品したこともあるとかで、 ほとんど置いていないということだった。 カメラや顕微鏡で高い評価があるだけに意外だった。 なんでも双眼鏡を作り始めてまだ日が浅く、 品質管理が甘いらしいという話だ。 実は購入候補の中に OLYMPUS の製品を含めていたので大きな衝撃だった。 やはり光学製品は精度が大事なので、 日本製が良いとのこと。 そのほか様々な情報が得られたが、 ここまでにそれらは全て書いたので割愛させていただく。 ちなみに双眼鏡は高価いものでも定価の 3 割引きであった。 当時のヨドバシだから税込みで、である。 安いシリーズのもののほうが割引率が大きい。 また、 デモに出ている製品で口径によって明るさが違ってくるのを確かめたりした。

 いろいろ見た結果、 まず 12 倍の双眼鏡を候補から外すことにした。 12 倍で瞳径が 4 mm 以上というと口径が 48 mm 以上必要だ。 すると大きく重くなる。 どうせ双眼鏡となんて中はほとんど空洞だから主に大きさが問題になるのだが、 その面から口径は 40 mm くらいまでに条件を絞った。 また、 親父の双眼鏡を使っていた経験で 8 倍では足りず、 視野が多少狭くなっても 10 倍のほうが良さそうだという感触を掴んでいたので 倍率も 10 倍だけに絞り込んだ。

 さて、 ここまでくるともう候補は限られてくる。 8 倍 30 mm 前後の広角型なら各社ともひとつはあるので数多くの候補が挙げられる。 しかし、 10 倍 40 mm 前後の広角型というと意外と少なかった。 OLYMPUS のものが精度の点で脱落すると Vixen ULTIMA Z10x42(W) しか残らなかったのだ。 定価 28,000 円、 当時 3 %の消費税込み 3 割引きで 19,600 円。 ちょっと思い切って購入を決断。 ヨドバシの新宿西口本店 6 階で購入したところ、 実際に箱から出して操作感などを確認してから渡してくれた。

 Z10x42(W) の使用レポートの前に、 せっかくだから各会社の製品の特徴などを挙げてみよう。

 ZEISS などのドイツ製品はいくら良いものでも 10 万円台後半からという値段はとても買えるものではない。 浦越なら 15 万円あれば 8 倍か 10 倍の双眼鏡ひとつと Canon の手ブレ補正機構付きの 15 倍のモデルを買う。

 で、Canon 。 おそらくこの手ブレ補正機構付きのものが主力だろう。 広角型で瞳径 3 mmの 12 倍と 15 倍の 2 機種。 値段は内容を考えると充分に安く破格とさえいえるが、 さすがに 6 桁のお金は出しにくい。 また、 12 倍ならまだしも 15 倍という倍率は一台目の双眼鏡には適していないだろう。 8 倍とか 10 倍とかの双眼鏡を持っていて、 さらにお金があって別にもうひとつ高倍率の買い足すというなら良いかもしれない。 少し大きく重いが一脚を持つことを考えれば充分便利。 この手ブレ補正機構付きが 2 種、 そのほかラインナップはあまり豊富ではない。 ふつうの双眼鏡はほぼ 8 倍しかなく、 それも高級機とコンパクトタイプくらいしかない。

 Canon とくれば次は Nikon 。 ここも高級機が主力のようだ。 また、 コンパクトタイプは多数ラインナップがあるが オーソドックスなスタイルは意外と少ない。 その中でも NEO STANDARD 「クリオ」シリーズはプラスチックボディなのでパス。 TRADITIONAL シリーズという普通のスタイルのものは コストパフォーマンスが悪いと思う。 広角型もあるが瞳径が小さめ。 実際に覘いてみた感覚では Nikon の双眼鏡はカメラのレンズでよくいわれるように、 シャープネスは良いが色やコントラストが不自然な感じがした。

 PENTAX は 94 年くらいから広角型の双眼鏡をラインナップしていない。 操作性が良さそうなだけにとても残念。 デザインが斬新だがなかなか良いと思う。

 OLYMPUS はとにかく精度が悪いらしい。 面白そうな製品もあるだけに残念。

 Vixen は天体望遠鏡が主力の会社。 口径 280 mm のシュミットガレクセン式(屈折反射併用式とでもいおうか)の 望遠鏡を作れるのだから精度などは安心して良いだろう。 また、 5 年保証というのも良い。 ラインナップもなかなかに充実している。 逆にコンパクトタイプはあまり作っていないようだ。

 MINOLTA はオートフォーカス双眼鏡が主力。 便利かもしれないが広角型はないし口径が小さいので浦越の眼中に入らない。

 では、 いよいよ Z10x42(W) の使用レポート、 と、いきたいところだが……ここまで書いて力尽きた。 簡単な使用感を挙げると、 ひとによっては 15 m ほど離れた井上喜久子さんを見たときに こじわが見えるらしい。 喜っ子さんの微笑みをその双眼鏡で見た彼がいうには 「いいものをいいもので見た」だそうである。 しかし、 喜っ子さんにメロメロしている浦越には 双眼鏡を覗いてもこじわなどは見えなかった。 ただ、喜っ子さんの微笑みをアップで見れて幸せだった。



parent directory



浦越和志( Ulagoe, Yasuyuki )  ulagoe@yk.rim.or.jp